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東京高等裁判所 昭和53年(行ス)13号 決定 1978年5月25日

千葉県成田市三里塚四四番地

抗告人 三里塚芝山連合空港反対同盟

右代表者委員長 戸村一作

同県山武郡芝山町岩山一九〇〇の三

抗告人 原田英明

右抗告人ら代理人弁護士 葉山岳夫

同 黒田寿男

同 長谷川幸雄

同 西村文茂

同 鳥羽田宗久

同 菅野泰

同 坂入高雄

同 井上正治

同 近藤勝

同 大川宏

同 中根洋一

同 増田修

同 木村壮

同 田村公一

同 植村泰男

同 仲田信範

同 助川裕

同 森谷和馬

同 熊谷裕夫

同 近藤康二

同 前田裕司

同 北村行夫

同 大室俊三

同 黒田純吉

東京都千代田区霞が関二の一の三

相手方 運輸大臣 福永健司

右相手方代理人 渡辺剛男

<ほか七名>

抗告人らは、千葉地方裁判所昭和五三年(行ク)第二号の二行政処分執行停止申立事件について、同裁判所が、昭和五三年五月一七日なした却下決定に対し、抗告をなしたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨、理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙抗告状及び抗告理由補充書の記載中、本件抗告人らの関係部分のとおりである。

二、当裁判所の判断

(一)  記録によれば、昭和五三年五月一六日、相手方が、抗告状添付物件目録記載の工作物(以下、本件工作物という)の所有者、管理者及び占有者に対し、本件工作物は、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(以下、本件措置法という)三条一項一号の用に供されるおそれがあるとして、同項の規定に基づき、昭和五四年五月一五日までの間、本件工作物を同項一号の用に供することの禁止を命じた(以下、本件処分という)ことが明らかである。

(二)  抗告人らは、抗告人三里塚芝山連合空港反対同盟(以下、反対同盟という)は本件工作物の所有者であり、また、抗告人原田英明はその管理者であり、それぞれ本件処分を受けたからその停止を求める、と主張する。

よって判断するのに、抗告人反対同盟が、法人格を有すること又は権利能力のない社団といいうるための団体としての組織をそなえ、代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体として主要な点の定めが確定しているものであることを認めるに足る疎明は全く存しないから、抗告人反対同盟が不動産の所有権を取得しうる法人もしくは権利能力のない社団であることは全く不明というほかはなく、抗告人反対同盟は本件工作物の所有者たり得ないものである。しかのみならず、疎明資料によれば、本件工作物(通称岩山団結小屋)は、昭和五一年八月頃建築されたものであることは認められるものの、抗告人らの主張するように、昭和四三年頃建設されたことを認めることはできず、また、これを建築したものが、共産主義者同盟(共産同)戦旗派であるか、抗告人反対同盟であるかを確定するに足る資料もないから、本件工作物が抗告人反対同盟の建築に係るものであることを認め難いうえ、抗告人反対同盟の本件工作物に対する使用状況を明らかにする資料も存しない。

次に、抗告人原田英明は、当審において提出した報告書において、岩山団結小屋は昭和五一年八月土地及びその地上にある建物の所有者である申請外内田寛一の許可を得て抗告人反対同盟が増築した建物部分を指し、同人はその時以降これに居住している、と述べるが、住民票の写しによれば、右原田は昭和五三年一月一七日芝山町岩山一九〇〇番地から同町朝倉三九四番地に転出したことが認められ、しかも、同人が抗告人反対同盟から本件工作物の管理を委任された疎明がないばかりか、前述のとおり、抗告人反対同盟が本件工作物の所有者であるか否か疑問なのであるから、右原田が右反対同盟から管理を委任されたとしても、正当な権原を有する者から委任された本件工作物の管理者であるとのことを認めることはできない。

以上のとおりであるから、抗告人らが、本件工作物の所有者又は管理者たる地位を有することを前提としてなされた抗告人らの主張は認めることができない。

(三)  次に、仮りに、抗告人らが本件工作物の所有者又は管理者の地位を有するとしても、抗告人らの主張は理由がない。すなわち、抗告人らは、本件建物は、一方では、空港建設に反対する者らが援農をしながら生活をする場であるとともに、反対同盟農民、あるいは全国から訪れる人々と本件建物の住人、もしくは、本件建物住人相互の交流、集会の場として使用され、さらに、空港建設に反対する住人らが、同じく空港建設反対闘争に共鳴する全国の人々に対する連絡事務所として使用しているのであり、本件措置法三条一項各号の用に供され、または供されるおそれは全くないものであるのに、本件処分により、本件建物を、長期間「暴力主義的破壊活動者の用」に供することを禁止されることは、抗告人らにとって、本件建物の全面的使用禁止と異なるところはなく、抗告人らに「回復の困難な損害」を与えるものである、と主張する。

しかしながら、本件処分は、本件工作物の所有者、管理者及び占有者に対し、本件工作物を一ヵ年間本件措置法三条一項一号の用に供することを禁止したものであって、抗告人らが本件工作物を右以外の用としての生活用、集会用、事務所用として使用することは、全く制限されていないのである。(抗告人原田については、警察当局は同人を暴力主義的破壊活動者と目していることが窺われるが、本件疎明資料を以てしては未だ直ちに同人を暴力主義的破壊活動者と認めるには疑問があり、同人が本件工作物を多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用以外の用に供することは全く制限されない。)したがって、本件処分が、抗告人らに対し、本件工作物の全面的使用禁止を命じたものであることを前提として、抗告人らに回復の困難な損害を生ずるとの抗告人らの主張は理由がなく、本件処分の効力の停止を求める抗告人らの申立は、その余の点につき判断するまでもなく失当というほかはない。

(四)  次に、抗告人らは、本件処分に基づく後続処分として、封鎖その他多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供させないために必要な措置を講ずることをしてはならないとの裁判を求めているけれども、本件措置法三条一項所定の禁止命令と同条六項所定の封鎖その他の処分とは、それぞれ別個の要件のもとになされる別個独立の処分と解するのが相当であり、右封鎖その他の処分は右禁止命令の執行行為にあたらないことは勿論、その必然的な進展としての処分とも解しえないから、予めその執行の停止ないし差止めを求めることは許されない。したがって、これと異なる前提に立つ抗告人らの右主張は、この点で既に不適法といわざるを得ない。

三、結論

よって、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 前田亦夫 裁判官 手代木進)

<以下省略>

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